上司嫌い。今日も、一方的な指示を受けると思うと凹む。会社行きたくない。気分も悪い。具合も悪い気がする。うつかな?医者の診断書があれば、休めるのに。
と、いう方へ。
確かにイヤな上司のことを考えると、会社にも行きたくないし、具合も悪くなるような。
でも、それはうつ病ではありません。
今回は、「新型うつ病」のお話しです。
■もくじ
- 新型うつ病とは、何だろう
- 新型うつ病の療法とは
この記事を書いている僕(コータロー)は、健康食品を販売して15年ほど。
新型うつ病とは、何だろう
新型うつ病と定型うつ病との違いとは
今回のテーマ「新型うつ病」は、とてもあいまいで難しいテーマです。それはなぜかというと、「新型うつ病」となっていますが、「病気ではない」という人いれば「病気だ」という人もいるからです。
この「新型うつ病」は、調べれば調べるほど、グレーゾーンなのだということが分かります。現代の闇なのかもしれません。
「現代型(新型)うつ」は、マスコミ用語
マスコミが取り上げて話題になった、[現代型うつ病]とか[新型うつ病]とかいわれ、いわゆる「非定型うつ病」という今までの「うつ病」にない特徴を持ったうつ病があります。20代〜30代の若者に多いといわれています。
どうして話題になったかというと、、、
今までのうつ病とは、その症状の現れ方が真逆の傾向がでるからでした。
たとえば、、、
- 夕暮れ時に出現することが多く
- 自分に対する他者からの評価や感情に対して過敏で傷つきやすい
- 他者に対する攻撃性が強く現れる
- 過食になり太りやすい
- 過眠になりやすい
また、、、
会社に出勤している間は憂うつで仕事が手につかないが、家に帰れば好きな趣味に熱中できる
など、今までのうつ病ならば、自分を責めてしまうのですが、この新型うつ病は攻撃性が強いというのも特徴だし、うつ病特有の憂うつ感が、自宅に戻れば解放されて躁状態になるからです。
さらに、こんなケースもあります。
うつ病で会社の仕事はできないのに、カメラマンのバイトをしている。うつ病で休職中に大型バイク免許を取得してツーリングに出かける
これは、単に逃避しているだけではないのかと思えてしまいます。
「現代型(新型)うつ」は、マスコミが、名付けた
日本うつ病学会(うつ病の診断と治療に関する専門学術団体)では、、、
「現代型(新型)うつ」は、マスコミ用語であり、精神医学的に深く考察されたものではなく、治療のエビデンスもない
※2012年に公表した「日本うつ病学会治療ガイドライン 大うつ病性障害2012ver.1(日本うつ病学会NEWS、 Vol.9、 2012)
「うつ病休職」という本から
『うつ病休職』(新潮新書)という本があります。著者は、現役の精神科医である中嶋聡氏。
彼は、本の中でこう述べています。
病気は「襲われる」もしくは「蒙(こうむ)る」ものです。主体はそれに対して受身です。襲われた(蒙った)主体は、助けを求めるしかありません。そして、病気が「治る」までは、「病人」という立場(「病者役割」)を認められ、従って必要な休養をとる権利を認められるべきです。
これに対して苦悩は、「味わう」もしくは「巻き込まれる」ものです。主体はその主人です。味わっている(巻き込まれている)主体は、助けを求めることもできるし、求めないこともできます。それは主体の選択です。それに応じて必要な援助を受けることができますが、それを使いながら苦悩を軽減するのは、主体の責任に属することです。(166ページより)
つまり、、、
うつ病は、病気であり、蒙ったもので、主体はそれに対して受け身。
新型うつ病は、抑うつ反応の巻き込まれたもので、主体は、その主人。
うつ病と抑うつ気分の違いとは
「気分の落ち込み」や「やる気が起きない」などのこころの不調は、どんな人にもあり経験すること。
うつ病の定義は、長くこの気分の落ち込みが2週間以上続いていることを指します。
うつ病と抑うつ気分の違い | ||
うつ病(DSM-5)/大うつ病性障害* | 抑うつ気分 | |
症状 | 強い | 弱い |
妄想 | 妄想的になることがある | 現実からずれない |
自殺 | 考えることがある | 比較的まれ |
日常生活 | 大きく影響され変化する | それほど大きな影響はなく変化も少ない |
状況からの影響 | よいことがあっても気が晴れない | よいこと、楽しいことがあると少し気が晴れる |
きっかけ | 多くはきっかけがあるが、はっきりしていないこともある | はっきりとした誘因がある |
周囲から見て | 理解できないことが多い | 理解できることが多い |
持続性 | 長く続く | 徐々に軽くなる |
抗うつ薬 | よく効くことが多い | 効かないことが多い |
仕事・趣味 | まったく手につかない | やっていると気がまぎれる |
*DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引:日本語版用語監修日本精神神経学会 監訳 高橋三郎・大野裕 訳 染矢俊幸・神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉 医学書院, 2014
従来のうつ病 | 新型うつ病 |
自罰的 | 他罰的 |
いつも沈んでいる | 気分の浮き沈みが激しい |
朝から午前が低調 | 夕方が低調 |
休日も低調 | 休日は元気 |
どこでも低調 | 会社に行くと低調 |
食欲不振 | 過食 |
不眠 | 過眠 |
新型うつ病は、単なる怠けではないのか
「会社にいるときは、凹みがちで具合が悪いのに、自宅に戻ると趣味のゲームなどを楽しめる」って、単なる怠け者ではないか。と思われがちです。
中嶋聡氏が書かれた本『うつ病休職』でも、、、
最近、診察していてとくに強く感じることがあります。それは「会社に行くのがしんどくなった。上司に話したら『それなら病院に行って診断書をもらってこい』と言われた。休めるように診断書を書いてほしい」といった患者がとみに多くなっていることです。(中略)
聞いてみると、「職場でストレスがある」と言います。医師から見ると、それは仕事をする以上はあたりまえのもので、それほどのストレスとも感じられない場合が多い。しかし本人は、その影響として抑うつ(落ち込んだ気持ち)や不安、イライラなどを強く訴え、「このような状態では仕事ができそうもない。休みたいので診断書を書いてほしい」と希望します。(26~27ページより)
医者の診断書があれば、休職できたり、退職できたりします。
労災が認められた事件も拍車をかけた
大手広告代理店で勤務していた女性が自殺した事件がありました。長時間労働の末に自殺してしまった悲しい事件。これは、うつ病による労災が認められた事件でもあり、たくさんの人の注目を集めました。ほかにもたくさんのニュースになった同様の事件がありました。
こういった痛ましい事件が起こると、、、
雇用している会社側でも、医者の診断書があれば、休職させずには置けない状態になります
なぜなら、、、
うつ病対策を充分に取っていないとか安全配慮義務違反などで使用者責任を問われる恐れがあるから
です。
うつ病が2010年代になって、1980年代の約5倍に増えた
うつ病の診断基準にDSMというのがあります。DSMとは、米国で開発された症状に基づく診断基準のこと。これが、うつ病患者を増やしたと、中嶋聡氏は、『うつ病休職』の中で書いています。
第一の理由は、DSMという診断基準(一九八〇年に現在のDSM-5の雛形であるDSM-IIIが発表された)の導入です。その結果、一九九〇年代には、一九八〇年代の二倍に増加しました。
また、、、
さらにもう一つ、うつ病の激増をもたらした要因は、SSRIと呼ばれる新型の抗うつ薬の発売です。SSRIは従来の抗うつ薬に比べて副作用が少なく、使いやすい薬です。それゆえ、うつ病の診断を厳密にしなくても抑うつ状態一般に使うことができます。これが発売された一九九九年を境に、うつ病はさらに急激に増加したのです。(90ページより)
このDSMによって、ぐんとハードルが下げられたのです。
- ほとんど毎日気分が沈んでいる
- ほとんどすべての活動に興味や喜びをなくしている
- 思考力や集中力が低下している
- 死にたいという思いがくり返し出てくる
など、全部で9つの症状のうち5つ以上の症状が2週間続いたらうつ病と診断するというものです。
この診断基準が下がったことで、、、
1963年当時、2万人未満だったうつ病患者が、2008年にはうつ病と躁うつ病(双極性障害)とあわせて100万人以上になったといわれています
※厚生労働省:患者調査上巻第64表 総患者数, 性・年齢階級×疾病小分類別 2008年 2012/7/6参照
それに拍車をかけたのが、SSRIという新型の抗うつ薬。
「それって、もしかしたらうつかも?」というフレーズのコマーシャルがひんぱんに流れていたことを思い起こさせます。
新型うつ病の療法とは
新型うつ病になりやすいタイプとは
現在、新型うつ病になりやすい人のタイプは、、、
- 昔から手間のかからないよい子
- 甘えるのが苦手な人
- 自己完結型の人 など
また、責任感が強く、自己主張が不得意といった人も新型うつ病になりやすいようです。
さらに、発達障害の一部が含まれているのではないかと考えられています。
また、、、
従来のうつ病に効くといわれる抗うつ薬は、新型うつ病には、効果があまりない。
ですから、新型うつ病の治療は、もっぱら会話による治療になります。
その内容は、、、
- どういう状況で症状が始まったのか、
- 職場でどのような状況で落ち込むのか
- そもそもどういういきさつで入社したのか
- 仕事の内容は自分に合っているのか
- 仕事は忙しくないかどうか
- 職場でのトラブルはなかったか
- 上司の性格はどうか
- 職場の人間関係はどうか
よく弊害になっているのが上司との関係ですが、、、
- 上司が厳しい
- 仕事のことを聞きづらい
- ひどいことをいわれた
- 一生懸命やっていても評価されない
など、新型うつ病に至る経緯を紐解き、
- 名誉回復の機会を与えてもらうとか
- 会社内での配置転換など会社でできること
- 能力を活かせる場所や転職
本人の思いどおりになるのかはいろいろだと思われますが、適切な改善が速やかに行われれば、快方に向かいます。
以上。
- 参考文献
- 厚生労働省:みんなのメンタルヘルス:うつ病
- 現代人に影を落とす「新型うつ病」とは
- ニューズウィーク日本版:「休みたいから診断書をください」–現役精神科医「うつ病休職」の告発
- 「新型うつ病」という言葉の功罪について考える
- 杉浦こころのクリニック:「現代型(新型)うつ病」について
- こころの陽だまり:うつ病と抑うつ気分
- NHKスペシャル:職場を襲う ”新型うつ”
- 中野区医師会:「新型うつ病」って何?
また、次回。
Thank you very much for providing photos and illustrations.
- pakutaso
- irasutoya
- Photo by Finan Akbar on Unsplash
- Photo by Laura Thonne on Unsplash